向日葵は茶畑広がるのどかな静岡県に住んでいる。半年前京都の私大を卒業して家業を継ぐために戻ってきたのだ。大好きな地元、信頼できる家族、大事な製茶工場。向日葵は基本的に満足して暮らしていた。気になることがあるとすれば、学生時代に交際していた元カレ・椿が音信不通になったことだけだ。でも、まあ、婚約者と結婚するみたいなことを言ってたし、京都の御曹司様にとっては田舎娘であるわたしがいると厄介なんだろう。なんだかもやもやするけど、早く忘れて茶畑の経営を勉強しなければ。ところがある秋雨が降りしきる肌寒い日に突然椿から電話がかかってくる。「今何してはる？」「家でごろごろしてるけど」「ほな沼津駅まで迎えに来てくれへん？」「は？　あんた今どこいんの」「沼津駅の南口」ただごとではない何かを感じた向日葵は急いで車のキーを握った。古都の美しい檻の中に囚われていた青年が、太平洋の日光がさんさんと降り注ぐ家で暮らし始めるまでの話。…続きを読む