――最も新しき神は、人族を見放した
魔法があり、剣があり、怪物がいる。勇者も、魔王も存在する。そこまでだけなら、昔と変わらない。しかし、その形態が、それまでとは決定的に違った。「最後の戦争」から300年の時を経て、世界も進化したのだ。魔王はその軍団を指揮する能力と、恐るべき情報網を広げた。勇者は逆に個々の勢力を研ぎ澄ました。そのため、世界の大部分を魔王軍が統治し、残った極端に強い勇者が籠城戦のような形でいくつかの地に町と城を建て、点々とした歪な世界情勢になっている。 ◆◆◆すべての元凶はもちろん、その世界を統治する、神の所業だ。世界の理を変え、全く別の世界を作ってしまった前代未聞の神がいたのだ。その名を、「アン・アイシクル・イヴ」四代目女神であり、その所業から「堕神」と呼ばれた。人間を見放した神、と。随分引っ張ったが、俺はその女神様と契約した〈死神〉だ。名はネロ。「ネロ・クライシス」と云う名前が〈死神〉になった時点で記憶に刻まれていた。〈不良品〉である俺は、記憶もないまま、問答無用でその仕事を請け負うことになる。〈死神〉とは、〈地獄〉にて、悪魔や鬼と共に死んだ人間の魂を転生させる仕事。拷問のような仕事だ。しかも任期は、世界の管理者たる女神様が代替わりするまでの、300年。あるのは、ノルマごとに30分の間、〈女神と茶会をする権利〉だけ。半永久的に続くその地獄の中、ある夜の茶会で、女神様は、俺にある〈契約〉を提案する。それは、「300年間、自我を保って〈死神〉を続けられたら、転生させる」と云うもの。俺は鼻で笑った。300年だ。できるはずがないと軽くあしらった。しかし、女神様の目は真剣だった。あたかも俺にそんなことができると信じているかのように、生真面目に俺を説得した。俺も、最後には折れて、駄目押しでその契約を受け入れた。それがすべての始まりだった。…続きを読む